経済数学

1 経済数学

1−11 線形代数


 最初は、一本の直線である。二つの直線が一点で交わって交点をなる。複数の直線が集まって範囲と領域を作る。それが解である。

 線形とは、直線を意味する。つまり、線形とは直線的な対象を意味する。
 直線的な問題を代数的は表現すると、二つの数、或いは、量の積を含む方程式となる。

 代数というのは、記号を用いて数学の計算を方程式にする方法である。

 代数というのは、既知数と未知数からなる関数である。線形代数とは、「線形」、即ち、一次式、直線的と言う意味と「代数」、即ち、既知数とと未知数からなる方程式という二つの意味からなる。つまり、線形代数とは、連立一次方程式を指す。
 既知数を定数とし、未知数を変数とする。

 変化する数を変数という。即ち、変数とは、変化を数の集合によって表現した全体である。

 事象というのは、一つの全体と、幾つかの部分から成る。一つの全体を固定的な部分と変動的部分の二つに分割した場合、変動的な部分が一定の法則によって運動している事象が想定される。その様な事象は、何等かの方程式として表現することが可能である。
 変動する部分が線形的、即ち、一次的な変数である場合を線形的という。その様な事象を扱うのが、線形代数である。

 数には、一つ二つと数えられる数と、一つの全体を単位とし、更に、その一部分を一として分割する事によって成り立つ数がある。前者は、個としての数であり、後者は比としての量である。

 この様な数には、数としての性質と、量としての性質がある。そして、経済において重要な働きをするのは量的側面である。故に、量の働きを知るためには、比率が重要となる。

 貨幣というのは、経済的価値を統一するための手段である。貨幣制度とは、財を統一された価値基準に変換する仕組みである。財は、統一された基準によって貨幣価値に変換されることによって演算が可能となる。

 貨幣的事象というのは、目に見えない無形の事象である。経済は、本来、数値的な事象ではない。経済的事象を、貨幣経済は、貨幣を媒介として数値化する事によって成り立っている。経済は、アナログの存在であるが、貨幣によってデジタル化される事で貨幣経済は、成立するのである。

 近代数学の基礎となった西洋数学は、コンパスと定規で数学的問題を解こうとした。つまり、何等かの物理的実体を数学の根底としていたのである。

 この様な数学は、本来、有形な物理的実体との結びつきが強かった。しかし、経済的数学が扱う対象は、無形な物である。その為に、経済的な数学は、本来の在り方を見失う危険性を常に孕んでいる。

 例えば、貨幣価値が経済本来の価値を見失わせることである。我々は、家族を養うために、金を稼ぐのであり、金を稼ぐために家族があるわけではない。人々を生活を維持するために、企業(経営主体)があるのであり、利益を追求することのみのために、企業があるわけではない。
 何のために、市場の仕組みがあるのか、その目的が見失われ、単に、会計的利益のみを絶対視してしまうと会計本来の機能が見失われてしまう。

 会計上の事故というのは、自動車事故とは違い、物理的な事故ではなく、観念上の事故である。観念上の事故とは、何等かの物理的な現象が現れるのではなく、あくまでも想定上の事故である。例えば、倒産と言ってもそれは、何等かの物理的損害があるわけではない。その証拠に、公共事業は、多額の赤字を出しても破綻したりはしない。

 しかし、それが問題なのである。何をしても経済的に破綻せずに、許されてしまえば、経済目的の意味が失われ、経済の仕組みが正常に機能しなくなってしまう。
 逆に、利益が、実体を失い観念的なものに堕してしまえば、利益追求のみが至上命令となり、利益のために、雇用や適正な価格の維持と言う事が忘れ去られてしまう。利益があげ利さえすれば何をやってもかまわないと言う風潮に支配される。
 例えば、人々に貢献するための公共事業が、利権化して、社会的負担を大きくしたり、人々の幸福を実現するための福利施設が疎外や孤独の原因になると言って事象である。
 また、本来、人々を啓蒙するための手段だった映画やテレビ、出版物が、道徳的退廃を増長させたり、人々を苦役から開放するはずの技術革新が、雇用を奪うというような事象が起こる。
 利益の持つ意味や役割が失われると利益を追求することの目的が見失われてしまうのである。
 何のために利益をあげる必要があるのかが判然としなくなることが重大な原因の一つなのである。

 物のために生かされているのではない。金のために動かされるのではない。
 人を生かすために、物があり、物を動かす為に金があるのである。

 利益は、最適な状況を作り出し、維持するための指標に過ぎない。問題は、利益を生み出す体系にあるのである。

 経済の貨幣的な事象は、単価と数量の積として表される。貨幣経済の経済的価値は、貨幣単位と数量の積として現される。
 即ち、経済的事象の基本は一次式として表現することが可能なのである。

 ただし、経済は、絶え間なく変化している。変化は、時間の関数である。故に、経済的事象は、貨幣的事象に時間軸が加えられた事象である。故に、経済的事象の根本は、二次元的、三次元的な事象である。そうなると、経済的事象を線形的に扱うことができない。その為に、経済的事象を一定の時点における断面と一定の時点間の変化して分解することによって経済的事象を分析する考え方が期間損益である。

 対象を解析する際、重要となるのは、時間が陰に作用しているか、陽に作用しているかである。時間が陽に作用している場合は、対象の運動の解明を目的としている場合であり、陰に作用している場合は、対象の構造の解明を目的としている場合である。

 時間的変化を認識するためには、位置と運動の双方から取りかかる(アプローチする)必要がある。位置と運動から、働きや関係を明らかにするのである。働きとは、対象自体が持つ力であり、関係とは、対象自体が持つ力が他の対象に与える影響である。
 故に、時間的変化を解析するにあたり、通常は、構造の断面と構造に推移から類推する。
 その典型が期間損益である。期間損益では、時間が陽に作用している損益計算と陰に作用する貸借関係の二面から経営の実体を解析する。

 変化は、時間の関数であり。時間が関わる運動を基本は、回転運動、即ち、周期的、指数的運動である。つまり、直線的な運動、線形的な運動は少ない。
 しかし、指数的変化は、構造的な揺らぎが大きく解析することが困難である。故に、曲線的運動を直線的運動、即ち、線形的な運動に置き換えることによって解析をするのである。

 経済的現象は、回転運動と比率が基本である。即ち、回転と比率の積として表現することができる。回転は、時間の関数である。回転と比率の積は、複利的な関係である。即ち、経済的現象は、直線的と言うよりも指数曲線的現象である。指数曲線的な現象を直線的な現象として捉えるのは困難である。その為に、回転数を制御して一次的な事象に変換する必要がある。それが期間損益である。

 指数的現象を線形的な現象に置き換えることによって演算が容易になる。その為に手段の一つとして時間が重要な役割を果たしている。

 会計は、典型的な線形関数であり、一次変換が会計の基本である。

 時間を一定の長さで区切り、一定期間を単位化することによって指数的変化を線形的な変化に置き換えることができる。
 その好例が、会計である。即ち、単位期間に区切り事によって期間損益を線形的に計算するのが会計である。

 会計で重要なのは、回転と比率である。会計は、単位期間に区切られ事によって、線形化される。つまり、回転を単一化することで、線形的事象に置き換えるのである。

 経済的価値は、単価と物理的数量、或いは、時間の量の積である。物的数量は、物的経済、物的空間に基づく数量である。それに対し、時間の量は、人的経済、人的空間に基づく数量である。

 時間的価値は、労働量に基づいて計算される値である。
 物的価値も物の価値と労働に分解できる。故に、経済的価値は、時間的価値に換算することができる。結局、経済的価値は、時間的価値といえるのである。

 時間的価値は、労働以外でも金利や地代などによって生じる。

 会計では、時間が陽に作用する場合は、回転、周期が重要となり、陰に作用する場合は、
比率が重要となる。

 多くの事象は、数列として表される。数列というのは、数の順序集合である。そして、数列の並びには、規則性のある並び方と規則性のない並び方がある。経済的事象の多くは、規則性がないか、あっても認識できない数列が多い。しかし、その中にも規則性のある数列があり、規則性のある数列が、予測や計画の基礎となっている事がある。
 例えば、経済的変化は、時系列的数列として表現され、会計情報は、勘定の数列として表現される。
 この様な数列は、位置と運動と関係を数値的に表している。
 この様な数列を解析することによって背後にある法則や実体を明らかにしようというのが線形代数の目的の一つといえる。

 規則性のある数列は、主に、時系列の数列に見られる。時系列数列の多くは、等比数列であり、複利的、指数的な数列である。
 約定によって予め条件が設定されている勘定は、必然的に、時系列的に規則的な数列となる。その様な勘定は、金融費用が代表的であり、地代、家賃、人件費、減価償却費などがそれに準じる。
 相場によって決まる勘定は、不規則な数列となる。例えば、原材料や管理費などである。

 経済の貨幣的価値は、単価×数量に収斂する。要するに、単価、及び、数量の確定の仕方、手段が問題なのである。
 単価の決め方には、定価、約定により予め決めておくやり方と相場によってその場、その時点で決済する手段とがある。

 価格は、単純に需給によってばかり決まるとは限らない。
 巨額の設備投資がかかる産業では、投資した資金を回収するために時間がかかる。又、収益と収入、費用と支出との間に時間的なズレが生じる場合がある。

 割賦販売や予約販売、掛け売上のように、売上にもいろいろな構造がある。しかし、売上勘定を見ただけでは、売上の構造は、明らかにならない。売上の構造を明らかにする為には、相手勘定の資産や費用を見てみなければ明らかにできない。即ち、収益構造とは費用構造なのである。

 経済上での方程式では、答え、即ち、結果も大事だが、方程式の構造、構成がより重要な意味を持つ場合が多い。

 つまり、経済は、方程式を解いた結果よりも、その結果を導き出す仕組みや構成、方程式が指し示す原因が重要だからである。

 その典型が利益である。利益を導き出す方程式である。
 利益を導き出す方程式は、収益−利益、以外に、前期期末資本残高−当期期末資本残高から導き出す方程式がある。

 この様な多様な構造を持つ経済や会計の動きを明らかにするのが線形代数である。




       

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