会議の記録

 会議にとって記録は重要な要素の一つである。ところが、意外とこれが理解されていない。会議が記録されていなければ、会議は、ただの話し合いの場になってしまう。ただの話し合いの場で済めばいいが、後で、会議の内容を勝手に改竄され、妙な責任が派生することにもなりかねない。記録があったとしてもその解釈の仕方によって全く違った結論になってしまうことすらあるのに、記録がなかったら、尚更のこと、自分勝手な解釈がまかり通ることになる。人間の記憶は曖昧、いい加減なのである。会議の結果を都合よく解釈されて、後で言った言わないのトラブルに発展するのが通例である。こうなると、会議なんて開かない方がいいなんて結論に達しかねない。
 人間の記憶は、曖昧でいい加減なものである。だとしたら、記録は、なるべく早く作って確認を取る必要がある。三日も四日もたったら記憶は曖昧なものになる。できれば即時的に記録を作った方がいい。会議は、議事録を作ることだと言う人もいるくらいである。(「SEの教科書」深沢隆司著 技評SE新書)議事録を作る過程は、目に見えない会議の記録を鮮明にする。だから、あながち悪い事とは言えない。ある意味で的を射ている。

 会議の実質は、議事録の確認に始まり、議事録の確認で終わる。

 中継的会議は、議事録の確認からはいる。特に、決議事項と、前回の会議移行の作業の経過の確認は、プロセス管理の成否を握る重要事項である。一連の会議の延長線上に捉える人のできない作業や指示が派生した場合は、事業や組織が分裂している可能性がある。その場合は、何らかの会議を以て統合する必要がある。いずれにせよ、会議の議事録とその間の手続き書類は、重要な証憑である。

 仕事の経緯は、正式な証憑と会議記録を辿れば明らかになるようにしておく。そうすることによって仕事に遺漏がないようにしておく。そうしないと、仕事や組織を制御する事ができなくなる。そうなると、何か事件があると、当然、議事録がものをいう。会議の記録を甘く見てはならない。

 会議の記録は、議事録に限ったものではない。
 先ず事前・事後の手続きに関連した文書が必要となる。
 事前の手続きに関連した書類には、第一に、会議の招集に関した手続き書類。第二に、出席者に対する通知、案内に関連した書類がある。事後の手続きに関連した書類には、議事録がある。
 日本では、あまり、会議の事前の案内に重きを置かない傾向がある。しかし、本来、会議の案内は重要である。そしてこの会議案内の基となる記録がアジェンダである。アジェンダは、会議の設計図である。このアジェンダをメモ程度のいい加減な物で済ます、酷(ひど)い場合は、作りもしないで会議を開こうとする。これでは会議はうまくいくはずがない。小さな打ち合わせ程度の会議でもアジェンダは、しっかりと作成しておいた方がいい。
 なぜならば、アジェンダは、会議の準備、議事の進行、会議の後処理、そして、何よりも会議を評価する時の基準、基礎となる物だからである。
 アジェンダ(agenda)を英和辞典でひくと、第一に、協議事項、議事<日程(表)>。第二に、(業務の)予定表、備忘録、覚え書き(行動の)指針、第三に、(コンピュータ用語として)問題解決の手順を形成する一連の操作、第四に、(神)典礼、礼拝とある。アジェンダは、言うなれば会議の仕様書です。アジェンダは、会議の案内書、会議の予定書、計画書、式次第に要約されます。

 そして、この会議の案内の配布の範囲、会議の準備の仕様、計画、役割分担、資料作成の土台を形成するのがアジェンダなのである。会議のレシピ・メニューがアジェンダなのである。

 アジェンダを構成する要素は、俗に5W1H、ないし、5W2Hと言われる。即ち、目的、対象、場所、時間、参加者、費用と言った項目である。
 つまり、第一に概念、即ち、主旨、目的、目標、第二に、対象、即ち、議題、問題点、内容、調査対象、第三に、物理的要素、即ち、場所、機材、資料、第四に、時間的要素、日程、予定、スケジュール、準備計画、議事進行計画、第五に、人的要素、出席者、協力者、主催者、役割分担(議長、書記、事務局)、組織、それに加えて、第六に、手続き的要素、即ち、招集手続き、通知手続き、承認手続き、出金手続き、決済手続き、議事録と言った要素である。しかも、これら全てに過程がある。
 アジェンダは、これらの要素を効率的にまとめた物でなければならない。

 会議は、無形のリソースとプロダクトからなる。つまり、会議にリソースを投入して、何らかのプロダクトを得るのである。そして、このリソースとプロダクトを実体的にするのが記録である。なぜならば、会議のリソースは、基本的に情報が主であり、無形な物だからである。人と言っても人間そのものを材料とするのではなく。人が持つ情報がリソース、材料となるからである。この様な情報を実体化するためには、記録しなければならない。
 リソースという観点からすると会議に提出される報告書や添付資料も重要な資源である。

 リソースやプロダクトは、情報や記録だけではない。人や物、金もある。しかし、会議は、根本が情報処理が目的であり、無形の情報と言う形のリソースやプロダクトが大部分を占める。だからこそ、記録が重要になるのである。

 記録の重要性は、会議か一連の作業や組織過程の断面であるという性格による。即ち、記録は、作業や組織の連続性の保証、証明になるかなである。記録を見れば、前後の作業、経緯、情報の流れ、組織、役割分担、権限と責任が明瞭となるからである。そして、一連の会議を追っていけば、作業の前後、組織上の権限、手順、順序、手続きの矛盾、齟齬が明らかになる。また、決定事項や作業の無原則な遡及を妨げる効果がある。

 つまり、作業や組織には、前後、上下の順序、優劣があり、この順番や序列に齟齬があると、事業全体、組織全体に支障が生じる。最悪の場合、事業や組織の崩壊をもたらす。物事には順序があるのである。手順に狂いが生じ作業が前後する、作業全体が立ち行かなくなる。この様な場合、作業が前後した箇所、齟齬が生じた処まで戻って作業を組み立て直さなければならい。この様な場合、記録があれば、作業の手順を間違ったところまで遡ることが可能となり、更に、それ以上まで遡及する必要がなくなる。そう言った歯止めのためにも、記録は重要なのである。

 また、会議は、作業の歯止めの役割も果たしている。会議は、一定の過程の途中にあって作業と作業との間を調整する役割をする。つまり、一定の関所、関門、調整弁の役割を果たす。それは、会議での決議事項、調整、修正事項は、当会議のより遡及させないような作用がある。遡及を抑止する働きを有効たらしめるのは、記録である。何らかの問題が、派生しても、一つ前の会議以前に作業が遡らない。また、個々の過程を検証することを可能とするのが会議の記録と作業記録、公式の証憑である。

 会議の資料は、議題の目的、目標から導きだれる。会議の資料を連想法よろしく、ランダムに思い浮かべて、用意する者もいる。しかし、それは、労力と資源の無駄遣いである。

 仕事の成果を、特定の対象に向けて報告することを、意識すると仕事の方向性が見えてくる。我々は、記録をつける時、その記録を作る目的を理解していないことが多い。その為に、ただ記録をつけるためにつけていたのではないのかと思われる記録によくぶつかる。この様な記録は、読みとるのに苦労する上に、成果に乏しい。また、正確さにも欠ける。なぜならば、会議そのものが合目的的なものであるからである。合目的的な会議の記録は、当然合目的的な物でなければならない。
 その典型が決算処理である。決算処理の終着、一つの目標、ゴールは、株主総会である。むろん、決算業務そのものは、納税と言った後処理があるが、それでも、株主総会が一つの目標点であることに変わりはない。そして、決算業務は、株主に報告すると言う目的が明確であるからまとまるのである。ただ漠然と集計していたら、一定の体系は築けない。つまり、株主やオーナーに対して報告するという業務目標が、近代会計制度を築き上げたと言っても過言ではない。この様に、制度や会議は合目的的なものなのである。そして、それ故に、そこに提出される文書も、また、その結果の記録も合目的的なもになるのである。

 議事録の重要性がなかなか認識されていない。議事録と言うより、記憶はすぐに陳腐化する。情報は何よりも鮮度が重要なのである。一週間もたってから確認されるような議事録は、意味がないどころか、危険な物である。その間にどのような加工が入り込むかも知れない。
 議事録を、即、つけるというのは、難しいことのように思えるかもしれないが、やろうと思えばできないことではない。
 極端なことを言えば、議事録の六、七分は、会議の前に作成できる。そう言うと事前に全ての根回しを終わらせ、日本の株主総会のように、予め全てが決められていて、それを再認する儀式のようなものにしろと言っているように、錯覚する者がいるが、そうではない。アジェンダである。会議で話される六,七分の内容は、アジェンダに記載されているという事である。

 そして、議事録は、次の会議のアジェンダの基になるのである。この議事録を基にして会議終了後に速やかに、補助的な会議を開く必要がある。補助的な会議の目的は、会議で決まったことを実行に移す、即ち、実務におとすための会議である。そして、その補助的な会議で議事録が作業指示書や手続きの証憑に置き換えられるのである。それを基にして、次会のアジェンダが作られるのである。
 会議の議事進行書や会議予定はいつ作られるべきかというのに誤解がある。一つの会議から次の会議にまでは何らかの作業がある。その作業を指定するのは、一つ前の会議の議事録なのである。つまり、次会の会議の議事予定は、少なくとも一つ前の会議の終了直後、場合によっては、一つ前の会議の前に決まっている必要がある。例えば、次会の会議の日程と場所の目星は、会議が始まる前につけておく必要がある。だから、会議の予定というのは、実は想像以上に早い時期に行われていなければならないのである。

 これも決算書を見れば解る。決算書も株主総会の議事録もある程度事前に準備することができる。そして、決算書は、次期の決算の準備であり、前期の反省にも、次期の予定にも繋がる物なのである。そこに決算書の目的と意義がある。そして、決算書も一種の議事録なのである。




        


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